番外編「初めて笑った日」
- 2009.07.29 Wednesday
- 縁よりも強く、剣よりも堅く
- 20:33
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- by 護川 結
そいつと初めて会ったのは、あたしが人形 -ドール- と呼ばれる人工生命体を創ってた時だった。
人形(以下・ドール)は人が創り出した、大切なモノを護る為のもう1人の自分。
と言っても、人によっては架空の恋人にしたりするけど、友達や家族として接することが一番多い。
1人暮らしとかをしてる人にとっては、第2の家族みたいな存在になってる。
あたしが創ったドール、ううん、あたしのもう1人の姉妹は結恵みたいな長い銀髪を緑のリボンで結んだ女の子「シロツメ」。
シロツメは、あたしが故郷の都市で最初に覚えた草の一種。
白くて小さな花を咲かせる、今でも好きな植物。
で、シロツメとか、ドールのデータのバックアップをする施設でそいつと遭遇した。
「ありがとう、私のミュウを直してくれて。じゃあね、木野宮君!!」
施設に行って、そろそろバックアップが終わっただろうシロツメを迎えに来たら、そんな会話が聞こえた。
横を通っていった女子は、制服からして機械科の生徒だった。
その後ろに、ミュウと呼ばれていたドールがついて行った
(機械科なら、自分のドールの損傷くらい直しなさいよ。)
そう思いながらシロツメのいる部屋に行くと、機械科の生徒がいた。
「あれ?君、誰?ここには、シロツメって子しかいないよ。」
「アンタこそ誰よ。ここに何の用?」
「俺?俺は木野宮。木野宮蛍(けい)。蛍って書いて、けい。」
木野宮、蛍…ねぇ。
「にしてもすごいよね、このシロツメって子。誰でも見れる部分のデータを見ても、この術式とか、系列は思いつかなかったよ。この子のオーナーに会ってみたいな。」
オーナー、それはドールの持ち主を指す。
ちなみに、オーナーの上にはマスターがいる。
その都市で一番いいドールを創りあげた人のみが名乗れる称号。
私もマスターを目指してる最中で、将来は労力の無い地域とかに無償でドールを行かせられるような、ボランティアみたいな会社を作ってみたい。
それか、ドールや機会の研究所的な場所で働きたい。
「シロツメのオーナーはあたしよ。さ、シロツメ。寮に帰ろっか。」
呼びかけると、シロツメは目を開けた。
いつ見ても、シロツメの蒼い瞳は綺麗だって思えた。
「ごめんなさい、オーナー。少し寝過ごしてしまいそうになりました。」
「君がこの子のオーナー!?」
(シロツメもあたしもそう言ってるのに信じないな、こいつ。)
「それより、シロツメ。あたしの事は『オーナー』じゃなくて、『佳春』って呼んでって何度言ったら分かるの?いい加減にしないと、データに書き込むわよ。そういうの嫌なんだけどね。後、敬語もなし。」
「あ…、うん。分かりました、じゃなくて、分かったよ、佳春。」
「それでよし。分かったでしょ、あたしがシロツメのオーナーよ。」
木野宮は俯いた。
(このまま黙っててくれればいいのに。)
そう思った直後、手を握られた。
「その技術と才能!!協力してほしい事があるんだ!!」
「は?」
事情を聞くと、将来の為に、他には無い技術を取得したいらしい。
で、あたしの術式とか系列が今までにないタイプだからと協力を頼まれた。
あたしは別にいいんだけどね。
自分の好きなことがやれるし、相手も専門知識あるから申し分ない。
だから木野宮に術式を教えてく生活は4ヶ月と結構長かった。
「でも、宮川さんはなんで機械科に来なかったんだ?」
「遥、双子のお姉ちゃんが武芸科で、両親から『悪い虫を付けさせない為に、お前も行け。お前なら自分も遥も護れるだろう』って。そのおかげで、あたしと遥は悪い虫は付いてない。」
「へぇ。お姉さん思いなんだな。で、なんで『あたしと遥は』の『は』を強調したの?」
「あたしの友達の結恵って子も護ってたのに、よりによって坂本みたいな低レベルな虫に奪われたのよ!!別にそれで結恵が幸せなら、邪魔する筋合いも理由も無いんだけど。それでも、あんな授業も仕事もサボる、人のいう事聞かない、そんな無礼な奴に取られたと思うと自信無くすのよ。」
「結恵って会長のこと?会長って、クールなのに恋人なんているんだ。」
結恵がクール?
そう思うとつい笑ってしまった。
「結恵はクールじゃないよ?坂本と2人の時は本当性格変わるからね。あたしや遥がいてもいつもより甘えん坊だし、おっとりしてるし。他の生徒は戦ってる時とか授業中しか見れないだろうけど。いつもはクールなんだろうけど、本当の結恵は坂本にくっつきすぎなくらいだもん。」
実際、アンタらバカップルだろと思いたくなるくらいくっついてる。
あの光景を見たら、親衛隊だのファンクラブだのの連中が黙ってないだろう。
「そうなんだ…、別に俺は会長のファンじゃないけどね。それより、早く術式とか系列教えて。早く自分で組んでみたいんだ。」
「そうだねぇ。あー、もう笑いが止まらない…。」
笑いながらも説明は結構順調に進んでいった。
「だからね、ここでこの系列の術式を入れると、他の系列の同じ術式より伝導力が上がるの。ちなみにこっちに変えると伝導力は他のと一緒だけど、力はこっちの方が上になる。どうにかして、この2つを合わせた式がこれ。元の式より少しだけ能力は下がるけど、両方の効果を1つの式にまとめてあるから、便利と言えば便利ね。」
「そっか〜。ここにこの式を入れるなら、どの系列がいいと思う?」
「ここか…。これなら、どれでも変わりないけど耐久性で考えるなら、この系列かな。」
あたしが自力で作った系列と術式の本を使って説明をしていった。
ちなみにここまで作るのにも、あまり時間はかからなかった。
授業の合間でも術式3つくらいなら作れたし。
「すごいな。この術式を最もいい組み合わせにしたのがシロツメなんだ。」
「そうね。シロツメはあたしが今まで考えてきた術式と系列の集合体みたいな子なの。ちなみに初めてオリジナルの術式を創ったの、いつだと思う?」
オリジナルの術式を創るのにはあまり能力は関係ない。
その人が生まれ持っている才能みたいなので決まる。
「中等部くらい?それから初等部くらいか?」
「…3歳と5ヶ月よ。」
「3歳!?まだ読み書きを習ったばかりの時期じゃん。よく創れたな。」
「うん。親が経済状況を管理する機械の効率が悪いって怒ってる時、ちょうど絵本代わりに読んでた術式の本のを使って系列ごとほぼ全部を変えたら、5分かかってた処理の時間が2秒になったわ。それ以来と言うもの、遥の武芸の練習を一緒にやりながら術式と系列の勉強をしてた。いつの間にか、その生活に慣れていって、楽しかった。」
絵本代わりと言っても真剣に本を読んでたから簡単に覚えれたけど。
「絵本代わりに術式の本かよ…、題名覚えてるか?」
「『電子機械の内部メモリの系列・術式-高速変換-ロリア系統』の上巻だったけど。ロリア系統は覚えるの簡単だったわ。形式さえ覚えれば、誰でも術式が創れる。」
「ロリア系統って…、アンタ、相当頭いいな。機械科とかしか習わないだろうから言うが、ロリア系統は現代残されてる術式の中で最も複雑な系統だぞ。まだシュノル系統の方が簡単だ。」
「そう?シュノル系統も簡単じゃない。そう考えると、あたしもオリジナルの系統創れちゃうかもって思えるじゃない。」
術式は創れても、系列と系統を創れる自信はない。
術式は簡単に言うと、問題集の問題みたいにたくさんある。
系列は数学の公式みたいなもの。もうすでに決まっているもの。
系統は単元と一緒。方程式っていう単元のように、ロリアとかシュノルって系統がある。
実際、数学とかができなきゃ機械術式を理解はできない。
「アンタなら創れるだろ。」
憎まれ口を聞いていると、木野宮のポケットから音楽が聞こえてきた。
「…ごめん、電話してくる。」
電話か…。
少しだけ気になった。電話する相手なんて都市外くらいだから。
どうせ、家族くらいだろうけど。
すると、廊下から大きめの声が聞こえた。
「だから、秋乃の精神データをドールに写せばいいだろ!?なんの為に機械科なんて入ったと思ってるんだ!!もういいよ、次行く時まで創って持っていく。じゃ、もう電話しなくていいよ。」
ドールに、誰かの精神データを入れる…?
つまり、その人のクローンを創るってこと?
「木野宮!!どういう事よ!!」
「あぁ、聞こえちゃったか。すまない、アンタには関係ないよ。」
「そんなワケないじゃない!!あたしはアンタに術式とかを教える立場なのよ!?関係あるじゃない。」
「……仕方ない、話すよ。秋乃の事とか。」
「そうよ。じゃないと、もう何も教えないわよ。」
話を聞くと、こうだった。
3年前、交通事故で撥ねられかけた木野宮を秋乃さんが押して助けたけど、秋乃さんが代わりに撥ねられた。
それから、意識を高める為の機械に入れたけど、3年たった今も起きないらしい。
「簡単じゃない。アンタのその頭の中にある術式は何の為にあるの?機械を効率よくする為のものでしょ?」
「そんな簡単にできるワケねぇだろ。」
「あたしをバカにしてるの?これでも神教都市では攻撃魔法の聖女として崇められてるのよ。それにシロツメのオーナーだし。アンタなんて足元にも及ばないわ。」
神教都市、数年に一度、その時都市にいる女性の中から最も優れた人を聖女として崇める風習がある。その時期にあたしと遥が旅行で出かけてたら聖女になってしまった…。
あたしは攻撃魔法、遥は治癒・援助魔法で聖女になった。
本当は武芸が良かったけど、1回だけ負けたから無理だったのよ。
「分かったよ。それじゃ、明日あたりに頼む。」
次の日。
秋乃さんがいる病院へ行き、機械を見せてもらった。
「変換してくのはいいけど、時間がかかるわ。こんな式じゃ、後50年以上かかるに決まってる。」
式が初歩の式ばかりだった。
ロリアとかシュノル以前の問題よ。
(こんなの、機械科に行けば初等部で習うものばかりじゃない。ここの専属メカニック殴り飛ばしても許されるわね。)
そう思いながら術式変換の為のキーボードを打ち続けた。
ふとこう思った。
なんでこんな事してるんだろう。
木野宮と過ごす時間は楽しかった。
初めて、専門的な話ができる友達ができて嬉しくて。
いつしか、放課後とかに会うのが当たり前になっていた。
その気持ちが高まるにつれ、機械科に行けばよかったと思うようになった。
キーボードを打つ手が止まった。
そして、頬に水が伝った。
木野宮には大切な人がもういるのに。
さっき見たじゃない。あんなに綺麗な人に勝てるハズ無いのに。
(こんなんじゃ、結恵達の邪魔なんてできないじゃない。あたしまで…、こんな風になっちゃって。)
これが、機械やドールとは違う人間の特徴。
自分以外の何かを愛していけること。
それからというもの、あたしは一心不乱にキーボードを打ち続けた。
せめて、あたしが与えられる幸せを全部与えたいと思った。
作業が終わった数分後。隣の部屋から歓声が聞こえた。
秋乃さんが目覚めた。
少し休憩しようと、仮眠室を目指して廊下に出た。
すると秋乃さんらしき人から声を掛けられた。
「ありがとうございます。やっと目が覚めました。…指、大丈夫ですか?」
「あ…、はい。少し切れてたりしてますけど、あれだけ打ち続ければこれでもマシな方ですよ。」
それが精一杯だった。
木野宮と秋乃さんが隣に立っていると、結恵と坂本を連想してしまう。
「ごめんなさい。疲れたので仮眠室で寝てきます。」
そう告げて、あたしは仮眠室で眠りに付いた。
目が覚めれば、学園に戻れる。元の生活に戻れるんだ。
そして、深い眠りに付いた。
意識が朦朧とする中、声が聞こえた。
『秋乃、頼み…る…、れて…いか?』
『いいよ、蛍は私の大切な幼なじみだもの。私が蛍の幸せを邪魔するなんてしたくない。』
『ありがとう。じゃ、俺はアイツの所に行って来るから。秋乃も……けろよ。』
木野宮と秋乃さん。けど、木野宮の声が不鮮明だった。
すると、暗かった空間に少しだけ光が差した。
「宮川、起きてるか?」
「…ん?あ、木野宮。今起きたけど、何か用?」
木野宮は失敗したと言わんばかりの表情になった。
「起こしちまったか。なるべく急いで話したかったからな。」
「で、用事は何?」
「あ、うん。あのさ、迷惑だろうけど、俺と付き合って欲しいんだ。」
「は?」
何を言い出すかと思えば、こいつは、って…付き合え?
「4ヶ月も俺なんかの為に時間を使ってもらったんだ。せめて4ヶ月は宮川の頼み事とか聞いてやる。お礼みたいなものだ。…いや、そっちの意味だけじゃなくて、普通の意味もあるけど。」
焦った。だって、このまま受ければ秋乃さんはどうなるのよ。
「秋乃も、宮川ならいいって。目覚めてから頼んだんだ。『もう1度、友達に戻らないか』って。そしたら、『どうせ佳春ちゃんと付き合いたいんでしょ?手伝ってあげる。』ってハイテンションになりやがって。で、この提案、どうだ?」
つまり、この目の前にいる奴と付き合うことになるの…?
なら、答えは1つしかないじゃない。
「いいけど、結恵達みたいにベッタリにならないように。結恵が付き合い始めて、遥が『佳春にも恋人できちゃったら、寂しくなるね。』って言ってたから。あんまり放っておくと遥に悪い虫が付くから。」
「本当か!?やりぃ!!だけどさ、よく考えたら俺も宮川の親から見れば自分の子に付いてる悪い虫だと思うんだけど。」
「いいのよ。親にとって悪い虫で、あたしにとっていい虫なら。それより、付き合ってとか頼んでおいて、名字はないでしょ。シルエシカに戻るまでにちゃんと名前で呼びなさいよ、蛍。」
その時、初めて心から笑った気がした。蛍自身が写真に残したかったと言うほど。
その後、都市に帰ってから、生徒会メンバーに蛍を紹介した。
「これから機械科代表として毎日来るから。佳春に会いにだけど。」
「だから、坂本みたいにベッタリするなって言ったでしょ。」
「大丈夫。俺はあそこまでストーカーじゃないから。佳春が機嫌悪くならない程度にするよ。」
「ストーカーって程じゃないだろ。な、結恵。そんなに一緒にいられるワケじゃないのに。」
…一緒にいられないからって、
「そんな後5センチで肩ぶつかります的な位置に立ってるんじゃないわよ。この変態護衛が。」
「変態とか、可哀想だな。佳春って本当に事実しか言わない辻斬りだよね。」
こんな風に過ぎていく時間。
大学部にいったら、機械科に行こうと思う。
専門的にやりたいと思えるし、それに
「蛍と一緒に4年間過ごしたいからね。」
「編入試験、佳春なら楽勝だろ。俺も進学試験受けたけど簡単だったぞ。」
「そっか。そうだ、大学部入ったらさ、2人で新しくドールを創ってみない?器になる身体から全部。学生の限界に挑戦してみたいの。」
「いいけど、2人で創ると周りから変な目で見られるぞ。俺達の子みたいで面白そうだけどな。」
「子供ってアンタねぇ。あたしは立派な機械化学者になるまで結婚する気ないよ?」
「そんなの、新しい系統を創ればいいじゃねぇか。高名な機械化学者夫婦か…、卒業までにそっちも優先してやってくか?」
「卒業までに?そうね、やってみる価値はあるわね。ま、どちらにしろ、結恵達には越されるだろうけど。あの2人なら、大学部入ってすぐに式あげるわよ。もう準備始めてるもの。大学部入ったら、生徒会寮の一室借りて同棲するとか言い出したのよね、この前。もう教師の許可貰ってきたし。」
「内容とか覚えておけよ。俺達も学園にいる間にやるかも知れないからな。ちょうど教会とかもあるからさ、この学園。教師連中が『式が挙げれないからって暴動起こされた』って理由で建設したし。」
「どうせなら、ライトとかの配線とか自分達でやりたいよね。」
「そういうのは他人に任せようぜ。」
「他人に任せて微妙なままやるより、とことんやりたいもの。そのくらいの意気込みが無いと系統なんて創れないよ?」
「そうだな。ま、佳春がそのまま武芸科でも会いに行くけどな。」
「あたしも頑張って試験受かるからね、未来の旦那様。」
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…佳春の性格はなんとなく好きです。
ツンデレではないけど、お高くとまってる感じがしますね。
それでもその土台がすごいから許されるみたいな。
ちなみに今の所、この2人が1番目なんですよ。
何の順番か?結婚の順番、ではなく同棲ですかね。
「一緒に住んで早くドールや系統を創る」とか言い出してね。
ネタバレですけど、佳春はこの作品の最後にやるであろうエピローグで機械化学者になってます。
もちろん、系統を創ってですよ。蛍と一緒に頑張って。
大学部のうちで完成させて、結恵達の5ヶ月後あたりに式挙げちゃいます。
「俺達もいい加減式挙げないか?」
「いいけど、そりまでに早く系列創りなさいよ。」
…軽いですね。仕事熱心ですけど。
人形(以下・ドール)は人が創り出した、大切なモノを護る為のもう1人の自分。
と言っても、人によっては架空の恋人にしたりするけど、友達や家族として接することが一番多い。
1人暮らしとかをしてる人にとっては、第2の家族みたいな存在になってる。
あたしが創ったドール、ううん、あたしのもう1人の姉妹は結恵みたいな長い銀髪を緑のリボンで結んだ女の子「シロツメ」。
シロツメは、あたしが故郷の都市で最初に覚えた草の一種。
白くて小さな花を咲かせる、今でも好きな植物。
で、シロツメとか、ドールのデータのバックアップをする施設でそいつと遭遇した。
「ありがとう、私のミュウを直してくれて。じゃあね、木野宮君!!」
施設に行って、そろそろバックアップが終わっただろうシロツメを迎えに来たら、そんな会話が聞こえた。
横を通っていった女子は、制服からして機械科の生徒だった。
その後ろに、ミュウと呼ばれていたドールがついて行った
(機械科なら、自分のドールの損傷くらい直しなさいよ。)
そう思いながらシロツメのいる部屋に行くと、機械科の生徒がいた。
「あれ?君、誰?ここには、シロツメって子しかいないよ。」
「アンタこそ誰よ。ここに何の用?」
「俺?俺は木野宮。木野宮蛍(けい)。蛍って書いて、けい。」
木野宮、蛍…ねぇ。
「にしてもすごいよね、このシロツメって子。誰でも見れる部分のデータを見ても、この術式とか、系列は思いつかなかったよ。この子のオーナーに会ってみたいな。」
オーナー、それはドールの持ち主を指す。
ちなみに、オーナーの上にはマスターがいる。
その都市で一番いいドールを創りあげた人のみが名乗れる称号。
私もマスターを目指してる最中で、将来は労力の無い地域とかに無償でドールを行かせられるような、ボランティアみたいな会社を作ってみたい。
それか、ドールや機会の研究所的な場所で働きたい。
「シロツメのオーナーはあたしよ。さ、シロツメ。寮に帰ろっか。」
呼びかけると、シロツメは目を開けた。
いつ見ても、シロツメの蒼い瞳は綺麗だって思えた。
「ごめんなさい、オーナー。少し寝過ごしてしまいそうになりました。」
「君がこの子のオーナー!?」
(シロツメもあたしもそう言ってるのに信じないな、こいつ。)
「それより、シロツメ。あたしの事は『オーナー』じゃなくて、『佳春』って呼んでって何度言ったら分かるの?いい加減にしないと、データに書き込むわよ。そういうの嫌なんだけどね。後、敬語もなし。」
「あ…、うん。分かりました、じゃなくて、分かったよ、佳春。」
「それでよし。分かったでしょ、あたしがシロツメのオーナーよ。」
木野宮は俯いた。
(このまま黙っててくれればいいのに。)
そう思った直後、手を握られた。
「その技術と才能!!協力してほしい事があるんだ!!」
「は?」
事情を聞くと、将来の為に、他には無い技術を取得したいらしい。
で、あたしの術式とか系列が今までにないタイプだからと協力を頼まれた。
あたしは別にいいんだけどね。
自分の好きなことがやれるし、相手も専門知識あるから申し分ない。
だから木野宮に術式を教えてく生活は4ヶ月と結構長かった。
「でも、宮川さんはなんで機械科に来なかったんだ?」
「遥、双子のお姉ちゃんが武芸科で、両親から『悪い虫を付けさせない為に、お前も行け。お前なら自分も遥も護れるだろう』って。そのおかげで、あたしと遥は悪い虫は付いてない。」
「へぇ。お姉さん思いなんだな。で、なんで『あたしと遥は』の『は』を強調したの?」
「あたしの友達の結恵って子も護ってたのに、よりによって坂本みたいな低レベルな虫に奪われたのよ!!別にそれで結恵が幸せなら、邪魔する筋合いも理由も無いんだけど。それでも、あんな授業も仕事もサボる、人のいう事聞かない、そんな無礼な奴に取られたと思うと自信無くすのよ。」
「結恵って会長のこと?会長って、クールなのに恋人なんているんだ。」
結恵がクール?
そう思うとつい笑ってしまった。
「結恵はクールじゃないよ?坂本と2人の時は本当性格変わるからね。あたしや遥がいてもいつもより甘えん坊だし、おっとりしてるし。他の生徒は戦ってる時とか授業中しか見れないだろうけど。いつもはクールなんだろうけど、本当の結恵は坂本にくっつきすぎなくらいだもん。」
実際、アンタらバカップルだろと思いたくなるくらいくっついてる。
あの光景を見たら、親衛隊だのファンクラブだのの連中が黙ってないだろう。
「そうなんだ…、別に俺は会長のファンじゃないけどね。それより、早く術式とか系列教えて。早く自分で組んでみたいんだ。」
「そうだねぇ。あー、もう笑いが止まらない…。」
笑いながらも説明は結構順調に進んでいった。
「だからね、ここでこの系列の術式を入れると、他の系列の同じ術式より伝導力が上がるの。ちなみにこっちに変えると伝導力は他のと一緒だけど、力はこっちの方が上になる。どうにかして、この2つを合わせた式がこれ。元の式より少しだけ能力は下がるけど、両方の効果を1つの式にまとめてあるから、便利と言えば便利ね。」
「そっか〜。ここにこの式を入れるなら、どの系列がいいと思う?」
「ここか…。これなら、どれでも変わりないけど耐久性で考えるなら、この系列かな。」
あたしが自力で作った系列と術式の本を使って説明をしていった。
ちなみにここまで作るのにも、あまり時間はかからなかった。
授業の合間でも術式3つくらいなら作れたし。
「すごいな。この術式を最もいい組み合わせにしたのがシロツメなんだ。」
「そうね。シロツメはあたしが今まで考えてきた術式と系列の集合体みたいな子なの。ちなみに初めてオリジナルの術式を創ったの、いつだと思う?」
オリジナルの術式を創るのにはあまり能力は関係ない。
その人が生まれ持っている才能みたいなので決まる。
「中等部くらい?それから初等部くらいか?」
「…3歳と5ヶ月よ。」
「3歳!?まだ読み書きを習ったばかりの時期じゃん。よく創れたな。」
「うん。親が経済状況を管理する機械の効率が悪いって怒ってる時、ちょうど絵本代わりに読んでた術式の本のを使って系列ごとほぼ全部を変えたら、5分かかってた処理の時間が2秒になったわ。それ以来と言うもの、遥の武芸の練習を一緒にやりながら術式と系列の勉強をしてた。いつの間にか、その生活に慣れていって、楽しかった。」
絵本代わりと言っても真剣に本を読んでたから簡単に覚えれたけど。
「絵本代わりに術式の本かよ…、題名覚えてるか?」
「『電子機械の内部メモリの系列・術式-高速変換-ロリア系統』の上巻だったけど。ロリア系統は覚えるの簡単だったわ。形式さえ覚えれば、誰でも術式が創れる。」
「ロリア系統って…、アンタ、相当頭いいな。機械科とかしか習わないだろうから言うが、ロリア系統は現代残されてる術式の中で最も複雑な系統だぞ。まだシュノル系統の方が簡単だ。」
「そう?シュノル系統も簡単じゃない。そう考えると、あたしもオリジナルの系統創れちゃうかもって思えるじゃない。」
術式は創れても、系列と系統を創れる自信はない。
術式は簡単に言うと、問題集の問題みたいにたくさんある。
系列は数学の公式みたいなもの。もうすでに決まっているもの。
系統は単元と一緒。方程式っていう単元のように、ロリアとかシュノルって系統がある。
実際、数学とかができなきゃ機械術式を理解はできない。
「アンタなら創れるだろ。」
憎まれ口を聞いていると、木野宮のポケットから音楽が聞こえてきた。
「…ごめん、電話してくる。」
電話か…。
少しだけ気になった。電話する相手なんて都市外くらいだから。
どうせ、家族くらいだろうけど。
すると、廊下から大きめの声が聞こえた。
「だから、秋乃の精神データをドールに写せばいいだろ!?なんの為に機械科なんて入ったと思ってるんだ!!もういいよ、次行く時まで創って持っていく。じゃ、もう電話しなくていいよ。」
ドールに、誰かの精神データを入れる…?
つまり、その人のクローンを創るってこと?
「木野宮!!どういう事よ!!」
「あぁ、聞こえちゃったか。すまない、アンタには関係ないよ。」
「そんなワケないじゃない!!あたしはアンタに術式とかを教える立場なのよ!?関係あるじゃない。」
「……仕方ない、話すよ。秋乃の事とか。」
「そうよ。じゃないと、もう何も教えないわよ。」
話を聞くと、こうだった。
3年前、交通事故で撥ねられかけた木野宮を秋乃さんが押して助けたけど、秋乃さんが代わりに撥ねられた。
それから、意識を高める為の機械に入れたけど、3年たった今も起きないらしい。
「簡単じゃない。アンタのその頭の中にある術式は何の為にあるの?機械を効率よくする為のものでしょ?」
「そんな簡単にできるワケねぇだろ。」
「あたしをバカにしてるの?これでも神教都市では攻撃魔法の聖女として崇められてるのよ。それにシロツメのオーナーだし。アンタなんて足元にも及ばないわ。」
神教都市、数年に一度、その時都市にいる女性の中から最も優れた人を聖女として崇める風習がある。その時期にあたしと遥が旅行で出かけてたら聖女になってしまった…。
あたしは攻撃魔法、遥は治癒・援助魔法で聖女になった。
本当は武芸が良かったけど、1回だけ負けたから無理だったのよ。
「分かったよ。それじゃ、明日あたりに頼む。」
次の日。
秋乃さんがいる病院へ行き、機械を見せてもらった。
「変換してくのはいいけど、時間がかかるわ。こんな式じゃ、後50年以上かかるに決まってる。」
式が初歩の式ばかりだった。
ロリアとかシュノル以前の問題よ。
(こんなの、機械科に行けば初等部で習うものばかりじゃない。ここの専属メカニック殴り飛ばしても許されるわね。)
そう思いながら術式変換の為のキーボードを打ち続けた。
ふとこう思った。
なんでこんな事してるんだろう。
木野宮と過ごす時間は楽しかった。
初めて、専門的な話ができる友達ができて嬉しくて。
いつしか、放課後とかに会うのが当たり前になっていた。
その気持ちが高まるにつれ、機械科に行けばよかったと思うようになった。
キーボードを打つ手が止まった。
そして、頬に水が伝った。
木野宮には大切な人がもういるのに。
さっき見たじゃない。あんなに綺麗な人に勝てるハズ無いのに。
(こんなんじゃ、結恵達の邪魔なんてできないじゃない。あたしまで…、こんな風になっちゃって。)
これが、機械やドールとは違う人間の特徴。
自分以外の何かを愛していけること。
それからというもの、あたしは一心不乱にキーボードを打ち続けた。
せめて、あたしが与えられる幸せを全部与えたいと思った。
作業が終わった数分後。隣の部屋から歓声が聞こえた。
秋乃さんが目覚めた。
少し休憩しようと、仮眠室を目指して廊下に出た。
すると秋乃さんらしき人から声を掛けられた。
「ありがとうございます。やっと目が覚めました。…指、大丈夫ですか?」
「あ…、はい。少し切れてたりしてますけど、あれだけ打ち続ければこれでもマシな方ですよ。」
それが精一杯だった。
木野宮と秋乃さんが隣に立っていると、結恵と坂本を連想してしまう。
「ごめんなさい。疲れたので仮眠室で寝てきます。」
そう告げて、あたしは仮眠室で眠りに付いた。
目が覚めれば、学園に戻れる。元の生活に戻れるんだ。
そして、深い眠りに付いた。
意識が朦朧とする中、声が聞こえた。
『秋乃、頼み…る…、れて…いか?』
『いいよ、蛍は私の大切な幼なじみだもの。私が蛍の幸せを邪魔するなんてしたくない。』
『ありがとう。じゃ、俺はアイツの所に行って来るから。秋乃も……けろよ。』
木野宮と秋乃さん。けど、木野宮の声が不鮮明だった。
すると、暗かった空間に少しだけ光が差した。
「宮川、起きてるか?」
「…ん?あ、木野宮。今起きたけど、何か用?」
木野宮は失敗したと言わんばかりの表情になった。
「起こしちまったか。なるべく急いで話したかったからな。」
「で、用事は何?」
「あ、うん。あのさ、迷惑だろうけど、俺と付き合って欲しいんだ。」
「は?」
何を言い出すかと思えば、こいつは、って…付き合え?
「4ヶ月も俺なんかの為に時間を使ってもらったんだ。せめて4ヶ月は宮川の頼み事とか聞いてやる。お礼みたいなものだ。…いや、そっちの意味だけじゃなくて、普通の意味もあるけど。」
焦った。だって、このまま受ければ秋乃さんはどうなるのよ。
「秋乃も、宮川ならいいって。目覚めてから頼んだんだ。『もう1度、友達に戻らないか』って。そしたら、『どうせ佳春ちゃんと付き合いたいんでしょ?手伝ってあげる。』ってハイテンションになりやがって。で、この提案、どうだ?」
つまり、この目の前にいる奴と付き合うことになるの…?
なら、答えは1つしかないじゃない。
「いいけど、結恵達みたいにベッタリにならないように。結恵が付き合い始めて、遥が『佳春にも恋人できちゃったら、寂しくなるね。』って言ってたから。あんまり放っておくと遥に悪い虫が付くから。」
「本当か!?やりぃ!!だけどさ、よく考えたら俺も宮川の親から見れば自分の子に付いてる悪い虫だと思うんだけど。」
「いいのよ。親にとって悪い虫で、あたしにとっていい虫なら。それより、付き合ってとか頼んでおいて、名字はないでしょ。シルエシカに戻るまでにちゃんと名前で呼びなさいよ、蛍。」
その時、初めて心から笑った気がした。蛍自身が写真に残したかったと言うほど。
その後、都市に帰ってから、生徒会メンバーに蛍を紹介した。
「これから機械科代表として毎日来るから。佳春に会いにだけど。」
「だから、坂本みたいにベッタリするなって言ったでしょ。」
「大丈夫。俺はあそこまでストーカーじゃないから。佳春が機嫌悪くならない程度にするよ。」
「ストーカーって程じゃないだろ。な、結恵。そんなに一緒にいられるワケじゃないのに。」
…一緒にいられないからって、
「そんな後5センチで肩ぶつかります的な位置に立ってるんじゃないわよ。この変態護衛が。」
「変態とか、可哀想だな。佳春って本当に事実しか言わない辻斬りだよね。」
こんな風に過ぎていく時間。
大学部にいったら、機械科に行こうと思う。
専門的にやりたいと思えるし、それに
「蛍と一緒に4年間過ごしたいからね。」
「編入試験、佳春なら楽勝だろ。俺も進学試験受けたけど簡単だったぞ。」
「そっか。そうだ、大学部入ったらさ、2人で新しくドールを創ってみない?器になる身体から全部。学生の限界に挑戦してみたいの。」
「いいけど、2人で創ると周りから変な目で見られるぞ。俺達の子みたいで面白そうだけどな。」
「子供ってアンタねぇ。あたしは立派な機械化学者になるまで結婚する気ないよ?」
「そんなの、新しい系統を創ればいいじゃねぇか。高名な機械化学者夫婦か…、卒業までにそっちも優先してやってくか?」
「卒業までに?そうね、やってみる価値はあるわね。ま、どちらにしろ、結恵達には越されるだろうけど。あの2人なら、大学部入ってすぐに式あげるわよ。もう準備始めてるもの。大学部入ったら、生徒会寮の一室借りて同棲するとか言い出したのよね、この前。もう教師の許可貰ってきたし。」
「内容とか覚えておけよ。俺達も学園にいる間にやるかも知れないからな。ちょうど教会とかもあるからさ、この学園。教師連中が『式が挙げれないからって暴動起こされた』って理由で建設したし。」
「どうせなら、ライトとかの配線とか自分達でやりたいよね。」
「そういうのは他人に任せようぜ。」
「他人に任せて微妙なままやるより、とことんやりたいもの。そのくらいの意気込みが無いと系統なんて創れないよ?」
「そうだな。ま、佳春がそのまま武芸科でも会いに行くけどな。」
「あたしも頑張って試験受かるからね、未来の旦那様。」
-------------------------------------------------------------------
…佳春の性格はなんとなく好きです。
ツンデレではないけど、お高くとまってる感じがしますね。
それでもその土台がすごいから許されるみたいな。
ちなみに今の所、この2人が1番目なんですよ。
何の順番か?結婚の順番、ではなく同棲ですかね。
「一緒に住んで早くドールや系統を創る」とか言い出してね。
ネタバレですけど、佳春はこの作品の最後にやるであろうエピローグで機械化学者になってます。
もちろん、系統を創ってですよ。蛍と一緒に頑張って。
大学部のうちで完成させて、結恵達の5ヶ月後あたりに式挙げちゃいます。
「俺達もいい加減式挙げないか?」
「いいけど、そりまでに早く系列創りなさいよ。」
…軽いですね。仕事熱心ですけど。
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